皆様こんにちは。らしえる代表理事の伊藤雄一です。人は人に関わった結果、変わっていくものだと思います。今回はそんなお話。
(ご家族様のご了解を得て、記事を書いています)
らしえるを立ち上げて、本年4月で丸3年となりました。まだまだ幼い法人ですが、ここに至るまでには、さまざまな出逢いがありました。
悲しい事ですが「この人と出逢ったばっかりに、つらい思いをしたなあ~・・・」という出逢いも、少なからずありました。
しかしその中に、私の人生を輝かせてくださった、かけがえの無い方との出会いもありました。何人かいらっしゃいますが、そのお一人の話を書きます。
彼とは以前、福祉の法人で勤務している時に出逢いました。彼はその時高校生でした。脳性麻痺の後遺症による障がいをお持ちのため、発語はなく、歩行も短い距離なら出来るものの、支援が必要、という方でした。
一方私は福祉未経験。知的障がいの息子がいるというだけで、福祉との関わりはゼロでした。やる気はみなぎっていましたが、そのような状況での出逢いでした。
福祉の世界は例えば、ネクタイを締めて営業に出る事は無い代わりに、利用者様の生活全般を支えねばなりませんでした。
具体的に書きますと、勤務した初日は利用者様が春休み中で、活動に調理がありました。
そのため職員の方に言われたのが「じゃあ手始めに、味噌汁を作ってくれますか?」でした。
しかし恥ずかしい事ですが、私は料理が一切できませんでした。ですからまず、味噌汁の作り方を教わらねばなりませんでした。
当然「え?味噌汁も作れないの?」となるでしょう。前職では味噌汁を作る業務はありませんでしたが、福祉業界では当たり前の事で、利用者さんの生活を支えるひとつに過ぎなかったのです。
そんな状況でしたから職場には迷惑のかけ通しで、勤務後ひと月くらいで既に落ち込んでいる、といった始末でした。ただし職員の方は皆優しかったので、私がひがんでいるだけだったのでしょう。
やがて私は「この環境から逃げ出したい」そんなことばかり思うようになっていました。当時は前のサラリーマン生活に戻っている夢を見て、飛び起きて現実に気づいては落ち込んだものです。自身のせいとはいえ、それくらい追い詰められていました。
そんなある日。このままでは迷惑をかけるだけだから、明日にでも会社に辞める事を話そうと思っていた時の事でした。この日、私の担当は前述の彼でした。はじめてのご一緒でした。
彼はまず「他の利用者さんが、おやつで使った皿を洗うから、手伝ってくれ」という事を、身振り手振りで伝えてきたのです。
私は驚きました。そもそも彼は身体が不自由なので、当然人の支援を受けるはずと思いこんでいたのです。それがあろうことか、自身と他の皆のお皿まで洗うだって!?と思ったのです。
しかし責任者に聞いたら「手順は彼が教えてくれるから、ご一緒してみてください」と言ってくれたので、そのとおりにしてみました。彼を後方から支えるのが私のお手伝いで、後は全て彼がこなしておりました。
もちろん、我々が普通に皿を洗うのとは訳が違います。彼は動きも大きく、一枚お皿を洗うのも大変なご苦労があったと思いますが、手伝おうとすると頑なに拒み、「自分の仕事だから」と身振り手ぶりで伝えました。こうして時間はかかったものの、やりきると満足そうに笑みを見せてくれました。
私は衝撃を覚えました。私の半分も生きていない方なのに、彼は自分の事はしっかり行い、それどころか仲間の面倒まで受け持っていたのです。
当日はお皿洗いでしたが、彼は身の回りの事も基本は自身で行っていました。私には最低限必要な支援だけを求め、それを優しく的確に伝えてくれたのです。
そして彼のあの笑み。まるで太陽のようにまぶしく、純粋な微笑みがとても印象的でした。
彼の前では、私はまるで子供でした。出来ない事をひがんでいる私と、出来ない境遇にいながらもしっかりと自立している彼。私は恥ずかしくなりました。自身の思い上がりに心から打ちのめされたのです。しかし一方で、彼に逢うのが楽しくなりました。勤務するのが苦痛ではなくなったのです。
彼は裏表がありませんでした。優しく教えてくれる反面、私が送迎の道を間違うと他の方が居ても指をさしてげらげらと笑いました。しかし私は彼が大好きだったので、なんだかうれしくて、いつもつられて笑顔になっておりました。
まるで彼が私の先生でした。私は毎日彼に学び、やがて少しづつですが、自信を持つ事が出来るようになったのです。
こうして私は、迷わず仕事に打ち込む事が出来るようになりました。障がいという垣根を超えて、人と人が触れ合う事の喜びを知る事が出来たからだと思います。まさしく彼のお陰でした。
それからも福祉の世界でいろいろな経験をさせていただきました。気づけば何年もの年月が経過していました。この間の出来事は端折りますが、結果として私は退職し、やがてらしえるを起業するに至りました。
お世話になった彼を思い出す事はままありました。しかし勤務地も変わり、もう彼に逢えないのか・・・と思うと、それは心が痛みました。
けれども奇跡が起きたのです。相談員から紹介があり、彼がらしえるにも通ってくれる事となったのです。こうして再び、彼の笑みを見る事が出来るようになりました。
まるで小説や漫画のような出来事でしたが、私は彼がいなかったら、おそらく福祉業界を辞めてしまっていたことでしょう。
彼のひたむきに頑張る姿、そして底抜けに明るい笑顔。彼は間違いなく私の人生を変えてくれた方なのです。この恩は決して忘れません。
らしえるで余暇の時間をしっかりとご一緒していき、彼の笑顔をひとつでも多く引き出す事で、お返していきたいと思っております。以上、自身の経験をシェアさせていただきました。
皆様はいかがでしょうか?自身の人生を変えてくれるほどの出逢いはありますか?
最後までお読みいただき、有難うございます。